The Street of the Four Winds
'Into this cursed Street of the Four Winds, the four winds blow all things evil.'
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0日目
0日目。
風が吹き抜け、緑の海が波打つ。
いつから『己』を自覚していたのか。
いつから『生』を実感していたのか。
それはもう、分からない。
ただ、空虚なる宙に『眼』だけがあった。
その眼はこの場所を映し出してはいたが、どこを見廻せど、『己』の姿を欠片も見つけることはできなかった。
やがて、『それ』は自身が未だ肉体を持たぬことを悟った。
己が何ゆえここにいるのか。
己が何ゆえ生を手に入れたか。
そんな小難しいことを考えるのは後回しにすることにした。
『それ』は本能的に、己の意思で肉体を形成することができることを知った。
人が誰しも、他者に誇れるような姿を望むように。
人が誰しも、他者を惹き付ける姿を望むように。
『それ』もそんな姿を望んだ。
だが、他者が望む美しい姿とはどんな姿であろう?
生まれたばかりの『それ』には、極めて難解な問いであった。
しかし『それ』には記憶があった。
いつの記憶か、何の記憶か、定かならぬ。
ただ、眼を閉じれば浮かび上がる『何か』を思い浮かべることに専念した。
島に異変あり。
全ての『生』、まともな姿を持った、手本とすべき『生』がそこに無かったことが災いしたと言うべきだろうか。
曖昧な記憶に縋るしかなかった。
思い浮かべる、他者が望んで見る、己が望んで見せる、そんな姿。
どこかで会ったであろうか、老若男女、動物、妖精、怪物……。
だが、それ以上に強烈な印象を持って浮かび上がる記憶があった。
『黄衣の王』
『深淵』
『速鵺』
総じて得られる印象は『名状しがたき姿』。
その衝撃は、あらゆる美しきものの記憶を押し退け、『それ』を覆い尽くそうとする。
不味い、と『それ』は思った。
振り払おうと、眼を開ける。
その視線の先に、何かが映った。
その何かが映ったのはほんの刹那。
だが、その刹那のうちに、『それ』の心を虜にした。
そう、己の欲する姿とは、これなのだ。
小さく、儚く、名も知らぬが、誰もが足を止めるであろう、美しい―――
視線がぶれた。
眼の奥で、何かが激しく脈打ち、視界が暗転する。
声など出せぬ。
だが、心中で想像を絶するであろう、苦鳴を上げ続ける。
いつまでそうしていただろうか。
眼を開ければ、何かがあった。
見下ろせば、発育の悪い少女の体と、
小動物を追い回す、無数の触手。
周囲を飛びまわる巨大な眼。
それが己の肉体であることを認めるのに、少し、時間がかかった。
あれは現実だったのだろうか。
それとも、己のものとも定かならぬ記憶が見せた幻だったのだろうか。
自身の心を瞬時に奪った何かはもう、どこにもなかった。
『それ』は、『少女』は、ただ、『*』になりたかった。
だが、その望みとは随分とかけ離れたものになってしまったらしい。
風が渦巻き、『少女』を包む。
失望はあったが、絶望はしていない。
風は今、確かに『立て』と言った。
ここで、この姿で生を受けた以上、何か意味があるのであろう。
そう思うことにした。
風に導かれるままに、島の端へと辿り着く。
落ちる陽の光を手で遮りながら全ての『眼』を凝らしてみれば、いくつもの船が島に向かって来ている。
風が吹き、教えてくれる。
島の中には、それ以外の方法で、いずこからか入ってきた者もいるようだ。
先程とは裏腹に、妙な高揚感がある。
何が始まるのかは分からないが、ともすれば、己の存在に意味を見出す何かが始まるのかもしれない……。
いつから『己』を自覚していたのか。
いつから『生』を実感していたのか。
それはもう、分からない。
ただ、空虚なる宙に『眼』だけがあった。
その眼はこの場所を映し出してはいたが、どこを見廻せど、『己』の姿を欠片も見つけることはできなかった。
やがて、『それ』は自身が未だ肉体を持たぬことを悟った。
己が何ゆえここにいるのか。
己が何ゆえ生を手に入れたか。
そんな小難しいことを考えるのは後回しにすることにした。
『それ』は本能的に、己の意思で肉体を形成することができることを知った。
人が誰しも、他者に誇れるような姿を望むように。
人が誰しも、他者を惹き付ける姿を望むように。
『それ』もそんな姿を望んだ。
だが、他者が望む美しい姿とはどんな姿であろう?
生まれたばかりの『それ』には、極めて難解な問いであった。
しかし『それ』には記憶があった。
いつの記憶か、何の記憶か、定かならぬ。
ただ、眼を閉じれば浮かび上がる『何か』を思い浮かべることに専念した。
島に異変あり。
全ての『生』、まともな姿を持った、手本とすべき『生』がそこに無かったことが災いしたと言うべきだろうか。
曖昧な記憶に縋るしかなかった。
思い浮かべる、他者が望んで見る、己が望んで見せる、そんな姿。
どこかで会ったであろうか、老若男女、動物、妖精、怪物……。
だが、それ以上に強烈な印象を持って浮かび上がる記憶があった。
『黄衣の王』
『深淵』
『速鵺』
総じて得られる印象は『名状しがたき姿』。
その衝撃は、あらゆる美しきものの記憶を押し退け、『それ』を覆い尽くそうとする。
不味い、と『それ』は思った。
振り払おうと、眼を開ける。
その視線の先に、何かが映った。
その何かが映ったのはほんの刹那。
だが、その刹那のうちに、『それ』の心を虜にした。
そう、己の欲する姿とは、これなのだ。
小さく、儚く、名も知らぬが、誰もが足を止めるであろう、美しい―――
視線がぶれた。
眼の奥で、何かが激しく脈打ち、視界が暗転する。
声など出せぬ。
だが、心中で想像を絶するであろう、苦鳴を上げ続ける。
いつまでそうしていただろうか。
眼を開ければ、何かがあった。
見下ろせば、発育の悪い少女の体と、
小動物を追い回す、無数の触手。
周囲を飛びまわる巨大な眼。
それが己の肉体であることを認めるのに、少し、時間がかかった。
あれは現実だったのだろうか。
それとも、己のものとも定かならぬ記憶が見せた幻だったのだろうか。
自身の心を瞬時に奪った何かはもう、どこにもなかった。
『それ』は、『少女』は、ただ、『*』になりたかった。
だが、その望みとは随分とかけ離れたものになってしまったらしい。
風が渦巻き、『少女』を包む。
失望はあったが、絶望はしていない。
風は今、確かに『立て』と言った。
ここで、この姿で生を受けた以上、何か意味があるのであろう。
そう思うことにした。
風に導かれるままに、島の端へと辿り着く。
落ちる陽の光を手で遮りながら全ての『眼』を凝らしてみれば、いくつもの船が島に向かって来ている。
風が吹き、教えてくれる。
島の中には、それ以外の方法で、いずこからか入ってきた者もいるようだ。
先程とは裏腹に、妙な高揚感がある。
何が始まるのかは分からないが、ともすれば、己の存在に意味を見出す何かが始まるのかもしれない……。
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